研究紹介(石川光年)
4月より着任いたしました石川光年です。これまでは事務補佐員として当部門に勤務しておりましたが、今年度より学術研究員として調査・研究に携わらせていただくこととなりました。どうぞよろしくお願いいたします。
さて、私の専門は日本中世の法・裁判に関する研究です。中世の法や裁判のすがたは、現在のものとはかなり異なっています。たとえば、現在の日本国憲法は国内であればどこでも、誰にでも適用されるものであることはいうまでもありません。しかし中世の法、たとえば有名な「御成敗式目」は、基本的に御家人など鎌倉幕府の支配を受ける(資格のある)人にしか適用されません。裁判も、幕府の裁判を受けることができるのは幕府と何らかの関わりをもつ土地に権利を有する人だけです。さらには、幕府での裁判で敗訴してしまったとしても、他の裁判機関(朝廷や荘園領主などが行う裁判)に訴えることが可能であれば、つまり、そのような資格を有する人であれば、たとえ幕府の裁判で負けても別の裁判で勝訴判決を勝ち取ることも可能でした。
法の概念も、今とは格段の違いがあります。当たり前のことですが、現在の日本の法律は間違いなく国が定めた法であり、その存在を国が認知していないなどということはありえません。しかし、鎌倉幕府が発した法令(追加法とよばれるもの)の場合、「何年何月何日に幕府がこんな法令を出してますよ」と、裁判を受ける側が、幕府裁判の場でその存在を証明するという、およそ現代では考えられない事態が発生していることがあります。なぜこんなものが法や裁判として存在していたのか。中世の人々の思考はいったいどうなっていたのか。たいへん難しい問題ではありますが、20年も前に出会ってしまったこのテーマと頑張って向き合っていきたいと思っています。