コラム:江戸時代の蔵書を受け継ぐ図書館(鈴木淳世)
現在、青森県東部には八戸市立図書館という公共図書館(public library)が存在しています。同館は明治7年(1874)創設の私立図書館「八戸書籍縦覧所」を前身としており、その歴史は150年に及びます。文部省の統計から明治時代初期に先駆的な図書館が数えるほどしか存在していなかったことが確認できますので、八戸市立図書館は日本屈指の歴史をもつ図書館と言えます。もちろん、文部省によって把握されていなかった図書館や、明治時代初期の短期間のみ活動していた図書館もありますので、日本《最古》の図書館とは断言できません。また、「ユネスコ公共図書館宣言」(和暦:令和4年〈2022〉改訂)の公共図書館の定義に照らし合わせてみますと、明治時代初期の八戸書籍縦覧所は公共図書館の定義から外れてしまいます。とはいえ、八戸市立図書館は明治時代初期からの組織的連続性が明瞭な図書館であり、日本《最古級》の図書館であることは間違いありません。
なお、八戸書籍縦覧所は宝暦3年(1753)頃創設の書物貸借組織「大仲間」を前身としていますので、八戸市立図書館は270年以上もの歴史を有していると言い換えられます。江戸時代、書物を共同管理し、貸し借りし合う組織が全国各地に生まれていたことを踏まえれば、そういった江戸時代の書物貸借組織の一つとして大仲間は位置づけられますので、八戸市立図書館は江戸時代の書物貸借組織からの連続性が認められる希有な公共図書館としても評価できます。実際、八戸市立図書館には大仲間・八戸書籍縦覧所の蔵書が受け継がれ、所蔵されていますので、歴史の古さを感じ取ることができます。
ちなみに、八戸市立図書館の歴史については、今月23日(土)、同館150周年記念事業「市民のための歴史講座③」でお話ししました。また、今月刊行予定の拙編『書誌書目シリーズ125八戸書籍縦覧所関連資料』(ゆまに書房、2024年)では八戸書籍縦覧所関連資料をいくつか収録し、解説を執筆しましたので、興味があれば読んでいただけると嬉しいです。
(写真)八戸市立図書館150周年記念事業「市民のための歴史講座③」風景
*書籍の詳細はこちら → https://www.yumani.co.jp/np/isbn/9784843368688