コラム:吉野作造記念館と地域史資料(佐藤弘幸)

吉野作造記念館は、大正デモクラシーをリードした大崎市古川出身の政治学者吉野作造(1878~1933)を顕彰する施設として、1995年(平成7)1月29日開館しました。以来、多くの関係資料を収集・調査し、展示や教育活動を行っています。
一方、記念館は近代史をテーマとする博物館という側面もあり、地域の幅広い資料が収集されてきました。例えば橋平酒造店関係資料は、市内の老舗酒造家の土蔵に保管されていた膨大な歴史資料群で、記念館ではそのうち近代の書簡類を中心に収蔵しています。中でも興味深いのは、1928年(昭和3)2月に行われた衆議院議員選挙、いわゆる第1回普通選挙関係の郵便物です。現在の公選葉書にあたる選挙無料郵便は、当時の選挙運動における重要な手段でした。本資料群には、当時の宮城県第1区の候補者全員の郵便物が揃っています。
現在の選挙郵便は葉書のみですが、当時は封書が中心で、形態も多様です。例えば当時の大政党である立憲民政党の候補者内ヶ崎作三郎の郵便は、本人の立候補宣言に加え、浜口雄幸総裁以下党幹部による推薦状、顔写真入り略歴、さらに名前の漢字と読みを大きく書いた名札などが同封されています。対して無産政党の一つ社会民衆党の候補者だった赤松克麿の郵便は、岳父吉野作造や叔父与謝野鉄幹・晶子夫妻らの名が並んだ推薦状こそ目を引くものの、小さい活字で長文を詰め込んでおり読みづらく、写真もありません。このように、新たな有権者を意識した各候補者の戦略、さらに経済力まで分かります。これらの選挙郵便は当時の有権者の多くが手に取ったことでしょう。しかし今と同じく、大抵選挙が終わればすぐ捨てられるものであり、だからこそ史料として貴重といえます。
記念館は今年でちょうど開館30周年を迎えました。これからは吉野作造の資料収集と共に、より幅広い地域史のアーカイブズとしての役割がますます重要になると考えています。(吉野作造記念館学芸員)

 

 

 

 

(写真)1928年衆議院選挙での赤松克麿候補の選挙郵便物(推薦状)

吉野作造記念館ホームページ:https://www.yoshinosakuzou.info/