コラム:白石市斎川・馬牛沼の鯉捕り―『白石実業新報』の翻刻作業から―(阿部さやか)

白石市斎川地区に馬牛沼(ばぎゅうぬま)という周囲2kmほどの沼があります。明治30年(1897)ごろから鯉の養殖が行われ、秋には水抜き(沼乾し:ぬまぼし)をして、鯉捕りのイベントが開催されていました。『白石実業新報』(明治44年〈1911〉2月11日創刊、大正3年〈1914〉4月21日発行号まで現存)にも、毎年秋に鯉捕りの広告や当日のようすが載せられています。そのなかから、大正元年11月21日発行号の記事を紹介しましょう。
11月17日早朝、数十発の打ち上げ花火を合図に、老若男女総出で鯉の捕獲がはじまりました。数十名の人々が半身を泥に没して大きな鯉をすくう姿は壮観です。遠くは仙台や福島からの参加者もいました。会場には桟敷席が設けられ、主賓の県知事や郡長、各町村の有志家数百名が鯉料理に舌鼓を打ちます。また、当日は福島の芸妓による舞踏披露や、参加者の記念撮影なども行われたそうです。
鯉の食べ方については、同年12月1日発行号の記事に「夏期は洗いがお定まりにて其他フライ、飴煮など(中略)冬期は鱗を脱せずして筒切となし味噌煮となす」とあります。今時期が旬の鯉の洗いは、湯通しした切り身を氷水で冷やしたもので、酢味噌などで食します。味噌煮は「鯉の濃醤(こくしょう)」のことで、「鯉こく」や「鯉汁」とも呼ばれます。脂ののった鯉を使った栄養豊富な汁物です。
現在馬牛沼で鯉の養殖は行われていませんが、沼のほとりに建てられた供養碑にその歴史が伝わっています。

 

 

 

 

 

 

 

(左)鯉捕りの広告(『白石実業新報』第64号、大正元年11月11日発行より)
(中央)鯉供養碑(2020.8.2撮影)
(右)現在の馬牛沼(2020.8.2撮影)