折り返しの年を迎えて(柳原敏昭)

 東北大学東北アジア研究センター上廣歴史資料学研究部門は本年度、第3期(2022~26年度)の3年目を迎えます。1期5ヶ年計画で進めていますので、折り返しの年となります。歴史資料保全活動(現地調査・整理・撮影・目録作成)、古文書解読講座、共同研究、講演会・企画展示、出版・デジタル発信を柱として着実に事業を進め、折り返し点以後のさらなる飛躍にそなえたいと考えております。
 右のような活動の中で、本部門の大きな特長は、各地の古文書サークル会員をはじめとする地域のみなさんと、共に歴史資料(以下、史料)の保全活動を行っていることにあるのではないでしょうか。
 当部門が対象とする史料の大部分は近世(江戸時代)以降に作成されたものです。ある推計によりますと、日本全国にのこる江戸時代の古文書は約20億点ということです(ちなみに戦国時代以前は約20万点)。東北地方にも近世・近代の史料が膨大にあります。所在は知られていても未整理の史料もありますし、旧家の土蔵に人知れず眠っているものもまだまだあるに違いありません(災害や代替わりによって、そのまま消滅してしまうおそれも・・・)。
 このような史料の保全作業、とくに整理・目録作成を部門のスタッフだけで行っても、あるいは専門の研究者だけで行っても、終わりは見えてきません。しかし、たくさんの市民の方が、古文書の解読法や整理の手法を学び、保全活動に参加されたなら、事態は大きく変わります。部門の活動は、〈講演会等で地域のみなさんに史料への関心をもっていただく→古文書解読講座の開講で史料を読める方が増える→地域のみなさんと部門とが共同で史料保全活動を行う→講演会・展示等で成果を公表する→地域で史料への関心が一層高まる→さらに多くの方が講座や史料保全活動に参加する〉というような、いわば「史料保全活動の好循環」を作り出す試みであるといえます。これが地域文化の振興につながるのはいうまでもありません。また、保全活動に携わることで、人生が豊かになるということもあるのではないでしょうか。こうした循環がさらにうまく回るよう、拡がるよう努力してまいる所存です。地域のみなさま、そして上廣倫理財団には、一層のご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。(上廣歴史資料学研究部門部門長、東北大学大学院文学研究科教授)