2018年西日本豪雨被災資料『倉敷市真備 土師家文書報告書Ⅰ』刊行のお知らせ(室山京子)

 このたび、岡山大学文明動態学研究所より『倉敷市真備 土師家文書報告書Ⅰ』を刊行しました。この報告書は2018年7月の豪雨災害によって水損し、レスキューされた被災資料の一つである土師家文書を取り上げています。レスキュー資料のクリーニング作業はボランティア団体である岡山史料ネットが進め、作業が終わったものは岡山大学が資料目録を作成し内容分析に取り組みました。全体で約400点のレスキュー資料のうち大部分は作業が終了し、冷凍庫で保管中のものは20点ほどとなりました。
 土師家文書には同家の親戚である西林家に関する資料が多く含まれています。西林家は備中国川上郡福地(しろち)村(現岡山県高梁市)において代々神職をつとめた家であり、国の重要無形文化財に指定されている備中神楽を19世紀前期に草案したとされる西林国橋の生家でもありました。報告書には、江戸時代の西林家資料のうち、神楽に関するもの、神社を取り巻く争論に関するものを収載しました。レスキュー資料以外に所蔵者が管理されている資料も掲載しました。すべて初公開となるものです。なお、江戸時代の福地村についての先行研究がほとんどないため、同村の様子を伝える土師家文書は貴重な歴史資料です。
 土師家文書は水損によるダメージが大きく、損傷の激しい資料が少なくありません。なかには氾濫した小田川か用水路から流れ着いた藻が付着しているものもありました(写真2)。しかしながら、災害に遭遇しても廃棄されずに資料が残されたこと、そしてその背景に所蔵者や様ざまな人びとが被災資料に向き合ったという事実があったことに目を向けたいと考えています。リレーのように受け継がれた思いは報告書という形となり、新たな史実が明らかにされようとしています。また、藻が付着した資料は災害を伝える「証人」という新たな役割を担ったともいえるでしょう。ぜひ、ご一読いただければ幸いです。(岡山大学文明動態学研究所客員研究員)

◎「岡山大学学術成果リポジトリ」(https://ousar.lib.okayama-u.ac.jp/ja/66569)よりダウンロードできます

 

 

 

 

 

 

写真1:西林国橋生家よりのぞむ福地川の谷

 

 

 

 

 

 

写真2:左側上部に藻が付着している