コラム:古文書から考える江戸時代の火災(井上瑠菜)

現在私は、安田容子氏(本学災害科学国際研究所)・峠嘉哉氏(同工学研究科)とともに、江戸時代の大火に関する研究に取り組んでいます(本研究は、東北大学「若手研究者アンサンブルグラント」の助成を受けています)。当時の火災は、人為的な着火を原因とするものが多いと考えられていますが、気象条件によっては火災拡大のリスクが強まるため、自然災害としての理解も必要です。特にこの時代を取りあげるのは、18世紀から19世紀は小氷期と呼ばれ世界的に気温が低い時代であること、江戸時代の日本では歴史資料が多く残っていることから、気象条件による火災の発生傾向の変化を詳細に追究できる可能性があるためです。
本研究は、江戸時代の災害記録を精査して大火の発生数・規模を時期・地域ごとにまとめ、その傾向を文系(歴史学)・理系(水文気象学)双方からのアプローチによって分析するものです。私はそのなかで、歴史資料の収集と分析による大火発生の空間分布調査を担当しています。チームの研究成果として、昨年11月には東北大学で開催されたGlobal Safety Symposium(東北大学大学院工学研究科土木工学専攻主催)にて、江戸時代の宮城県域の大火状況についてポスター発表を行いました。
現在は、岩手県域を対象とし、『雑書』の分析を進めています。『雑書』は盛岡藩内の政治・経済・社会諸事象を、家老席の「御物書」が197年間(1644~1840年)にわたって記録したもので、その中には火災の情報も含まれています。『雑書』に記録された火災被害の規模はさまざまですが、日付・天候・風向き・出火場所・焼失家数・被害者人数などが記録されているため、当時の火災状況を詳細に知ることができます。本研究が現在も起こる自然災害との関わり方や防災を考える一助となりますよう、引き続き資料の調査分析に取り組んで参りたいと思います。

            グローバルシンポジウムでのポスター発表のようす