コラム:『白石実業新報』の翻刻作業から―奥州斎川名産「孫太郎虫」―(阿部さやか)

宮城県刈田郡斎川村(現在:白石市斎川)名産「孫太郎虫」をご存じでしょうか。孫太郎虫はヘビトンボの幼虫のことで、茹でて乾燥させたものが疳(子供のかんしゃくや夜泣き)に効くといわれ販売されていました。今回は『白石実業新報』第64号(大正元年(1912)11月11日発行)から、この孫太郎虫をめぐる事件をご紹介します。
同年10月15日、大河原税務署から孫太郎虫を取り扱う問屋へ、この虫を「薬」として販売するならば「売薬印紙」を貼り付けるようお達しがありました。これは薬の製造者が負担する租税で、薬価の約1割にあたる印紙を購入して製品に貼る仕組みでした。孫太郎虫を「数百年来名産」としてきた斎川村にとって、新たな負担は看過できない問題です。村長や問屋など4名が宮城県庁警察部と仙台税務監督局へ申立てを行い、紆余曲折の末「薬の効能を付けずに販売すれば従来の通り印紙は必要なし」という判決に至りました。
売薬印紙税は大正15年に廃止となり、上記の制約もなくなったと考えられます。孫太郎虫はその後も疳の妙薬として人々の間で長く使用されました。ちなみに、記事の翌年8月に孫太郎虫入りの煎餅が売り出されて大盛況となったようです。菓子は「薬」ではないため、税務署からのお達しもなかったことでしょう。

        孫太郎煎餅の広告(『白石実業新報』第90号(大正2年8月1日発行)より)

白石市図書館所蔵 地元発行新聞等の目録
http://www.city.shiroishi.miyagi.jp/soshiki/31/13110.html