松島町で講演会を開催しました。

8月7日、宮城郡松島町の高城避難所3階多目的ホールにて、歴史講演会「小津久足「陸奥日記」の世界 よみがえる江戸時代の松島」を開催しました。主催は、上廣部門・「陸奥日記」刊行会・東北大学災害科学国際研究所・NPO法人宮城歴史資料保全ネットワーク・松島町教育委員会です。
「小津久足」という名前には耳馴染みのない方も多いのではないでしょうか。小津久足(1804~1858)は伊勢国松阪の出身で、江戸にも出店を持つ商人であると共に、滝沢馬琴らとも交友を持つ文化人でした。歴史研究者の間では豪商湯浅屋与右衛門として、文学研究者の間では蔵書家・旅行家小津桂窓(けいそう)として知られており、映画監督の故小津安二郎は久足の姪孫(甥の子)にあたります。とりわけ注目されているのは現存する46点もの紀行文で、その中でも『陸奥(みちのく)日記』は、質・両の両面で江戸時代の紀行文の代表作とされています。紀行文研究者の間では、松尾芭蕉『おくのほそ道』を凌ぐ紀行文学の傑作と評価されているのです。
『陸奥日記』は、天保11年(1840)に久足が江戸と松島を往復した際の紀行文で、記述は合計12万字にもおよびます。東北地方を旅した紀行文では他に類をみない長編です。久足は、往路はいわゆる江戸浜街道、復路は奥州街道を通っているのですが、注目されるのは、その詳細な記録から、東日本大震災によって失われてしまった過去の被災地の風景を復元できる可能性があることです。この点に着目した東北大学災害科学国際研究所の佐藤大介氏が発起人となり、「陸奥日記刊行会」が組織され、『陸奥日記』を研究素材としていた菱岡憲司氏(有明工業高等専門学校)、青柳周一氏(滋賀大学経済学部)、高橋陽一(部門助教)らがメンバーに加わりました。
本講演会は、『陸奥日記』の仙台近郊や松島の記述を中心に紹介し、まず小津久足の人となりや『陸奥日記』の記録としての魅力を広く伝えたいと考え、企画しました。講演内容は以下の通りです。

  • 菱岡憲司「小津久足の人物像」
  • 青柳周一「『陸奥日記』から見えてくるもの―19世紀の商人・旅行・地域」
  • 高橋陽一「小津久足と仙台・松島」
  • 本木成美(松島町教育委員会)「松島町教育委員会の取り組み紹介」

冒頭、佐藤氏からの趣旨説明の後、菱岡氏が小津久足の足跡を、蔵書・小説受容・紀行・詩歌を柱に紹介しました。続く青柳氏の講演では、豪商湯浅屋としての小津家の活動歴が紹介されると共に、『陸奥日記』の記述からさまざまな地域情報が導き出せることが明らかにされました。高橋の講演は、『陸奥日記』の仙台・松島間のルートの特徴や松島での特筆すべき記述を紹介し、『陸奥日記』の魅力を伝えると共に、久足の言動から当時の文化人の特色に迫るものでした。

酷暑の中、当日は約100名の方々にご来場いただきました。今後、福島や茨城での同様のイベントも検討しています。また、『陸奥日記』には解説文を付し、過去の地域情報を知りうるテキストとして一般向けに刊行できればと考えています。本講演会で紹介できたのは、内容豊かな記述のほんの一部であり、十人十色の読み方が可能な『陸奥日記』の史料的価値をこれからも多くの人にお伝えしたいと思います。ご来場いただいた皆様、ご協力いただいた松島町の皆様に厚く御礼申し上げます。

講演会のようす

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