コラム:犬と猫を祀る場所(阿部さやか)

 犬と猫といえば現代ではペット代表のような動物ですが、実は近世以前から彼らを鎮守として祀る地域があります。場所は山形県高畠町の高安地区。一つの集落の中に、犬を祀る「犬の宮」、猫を祀る「猫の宮」がそれぞれ建立されています。
 両お宮には、その由来を記した由来記がいくつか残されています。代表的なものを要約すると、和同年間(708~715)に、村を苦しめる化け狸を甲斐国より連れて来た「三毛犬・四毛犬」が退治しました。その2匹を祀り、聖真子権現を安置したのが犬の宮とされています。その後、延暦年間(782~806)に犬たちに殺された狸の怨念が蛇に乗り移って復讐を企てます。その蛇を退治した猫を祀り、観世音菩薩を安置したのが猫の宮とされています。いずれも物語の形式は他地域にも見られるものですが、犬と猫それぞれの由来に繋がりがある点が興味深いといえます。歴史資料では、早いものだと元禄5年(1692)に記された『出羽国置賜郡高安村検地水帳』に両お宮の存在を確認することができます(高安長生会1992)。
 犬は安産の神様とされることが多く、犬の宮にも「戌の日参り」に訪れる方がいました。一方、猫は蚕の天敵となる鼠を捕るため養蚕の神様とされ、猫の宮では昭和30年代頃まで養蚕参りに訪れる方が多くいたといいます(高安長生会1992)。
 現在は犬の宮別当を天台宗の林照院、猫の宮別当を曹洞宗の清松院が務めています。両別当によると、昭和40年代半ばからペット供養の依頼が寄せられるようになり、ペットブームによって年々その件数は増加しました。その後、昭和54年(1979)に犬猫用の墓地が整備され、昭和63年(1988)から観光事業の一環で毎年7月第4土曜日に「全国ペット供養祭」が開催されています。
 村を守ったとされる犬と猫を祀るふたつのお宮。時代によって人々が犬や猫に求めるもの、お宮を訪れる参拝者の願いは変化してきましたが、昔も今も変わらず地域の鎮守として大切にされています。(仙台市博物館)

【主な参考文献】
小川弘『犬宮並猫宮由来記』(タカノ印刷、1964年)
高畠町史編集委員会『高畠町史 上巻』(高畠町、1972年)
高畠町史編集委員会『高畠町史 下巻』(高畠町、1986年)
高安長生会『高安誌』(高安長生会、1992年)

 

 

 

 

 

 

(写真1)犬の宮。

 

 

 

 

 

 

(写真2)猫の宮。

 

 

 

 

 

 

(写真3) 令和4年9月に犬猫用の納骨堂を含む「高畠町犬猫やすらぎの里公園」がオープンしました。写真は令和5年度の「全国ペット供養祭」で撮影。