6月8日:山形県立博物館令和6年度博物館講座①開催報告(竹原万雄)

 部門では山形県立博物館主催の博物館講座(全6回)のうち2回分の講師を担当しています。今年度第1回目の博物館講座が2024年6月8日に開催され、竹原が講師を務めました。「江戸・明治時代の旅と山形」と題し、江戸時代の六十六部廻国聖(略して六十六部)と明治時代の旅日記についてご紹介しました。
 六十六部を一言で正確に説明することは難しいのですが、辞書的には「『法華経』を六十六部書き写し、全国を巡って66ヶ所の霊社霊仏に一部ずつ納経する廻国の修行者」と説明されます。しかし、実際は66ヶ所に止まらず、数百ヶ所に納経する事例も少なくありません。納経すると各寺社から請取状をもらえますが、それを帳面に仕立てたものが納経帳です。
 天童市貫津に伝来した納経帳からは、天明3年(1783)から同8年(1788)までの5年間で600ヶ所以上の寺社に納経していたことが確認できます。一方、山形市松原に伝来した納経帳には、妻や子どもに先立たれた男性が菩提をとむらうべく巡礼の旅に出た旨が記されていました。山形市蔵王上野には「奉納大乗妙典六十六部」と刻まれた石碑があり、廻国成就を記念したものと思われます。また、小国町黒沢の石碑には「滅天獄浄運信士」「備前上道郡 矢津村伊右エ門」などとあり、廻国途中で亡くなった六十六部の供養を目的としたものもありました。さまざまなかたちで残る江戸時代の六十六部の歴史遺産は、皆さまの周りでも見つけることができるかもしれません。
 明治時代の旅日記は、朝日町大谷に伝来した地方商人のものをご紹介しました。明治12年(1879)2月9日に出発し、東京・伊勢神宮・宮島・京都・新潟などをめぐり7月13日に帰着した155日間にもおよぶ旅でした。日記には来訪場所や距離、宿泊場所、乗物代などの費用、土地の状況や感想などが記されています。京都や富山では商売の取引相手と交流した記録があり、名所旧跡めぐりに止まらない商人としての旅の特徴がうかがえます。また、日記に記されたさまざまな費用を整理したところ、宿泊代は平均16銭ほどでしたが、京都で撮影した写真一枚の代金はその4倍以上にあたる75銭とありました。旅日記を参考に過去の旅を想像しながら各地を巡ると、今までと違った景色が見えるかもしれません。
 講座にあたり、山形県立博物館や天童織田の里歴史館の皆さまにはたいへんお世話になりました。当日、足をお運びいただいた受講者の皆さまとあわせまして、厚くお礼申し上げます。

博物館講座①チラシ PDFファイル

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