コラム:『盛岡藩家老席日記雑書』の最終巻が刊行されます(兼平賢治)

現在の岩手県盛岡市に城下町を構えた盛岡藩には、寛永21年(正保元年、1644)から天保11年(1840)までの197年間、途中に欠巻はあるものの190冊にわたって記録された家老席日記の「雑書」(もりおか歴史文化館蔵)が伝わります。江戸時代をほぼ網羅するように日々の記録が残されており、とても貴重なもので県指定文化財にもなっていますが、くずし字で記されていることから、必ずしも十分な活用がなされていませんでした。
その「雑書」を翻刻して刊行する事業は、昭和61年(1986)に第1巻(第15巻までは『盛岡藩雑書』熊谷印刷出版部)を刊行し、昭和・平成・令和と3つの年号をまたいで、この3月に最終巻となる『盛岡藩家老席日記雑書』第50巻(東洋書院)を刊行して完結します。私は第23巻から校閲と目次作成を担当してきました。すべての記事が活字化された今、付属のDVDでは文字検索も可能ですから、これまで以上に縦横に活用が進んで、盛岡藩研究がより一層進展することが期待されます。
「雑書」は特定の日の出来事をピンポイントで確認できて便利ですが、まとまった期間を眺めると、盛岡藩におこった変化を知ることができます。藩主の代替わりによって政策に変化が生じ、それは「国風(くにぶり)」といって藩の文化のあり方にも影響を与えていました。
藩政にかかわることばかりではなく、盛岡藩領の自然環境や生態系の変化にも気づかされます。例えば、17世紀には城下周辺の山々にも鹿が多く生息していて、藩主による大規模な鹿狩りが繰り返し行われていましたが、開発と森林資源の活用が進んだ18世紀になると、山々は木が伐り尽くされて鹿などは姿を消し、植林が求められています。
すべての記事が活字化された今、みなさんも「雑書」の世界に足を踏み入れてみませんか。
(東海大学)

*「雑書」の特徴については、最近、拙文「東北諸藩の日記―盛岡藩「雑書」と守山藩「守山御日記」の特徴」(福田千鶴・藤實久美子編『近世日記の世界』ミネルヴァ書房、2022年3月刊行)にまとめましたので、ご興味のある方はお読みいただければ幸いです。

(参考URL)
◎もりおか歴史文化館
https://www.morireki.jp/
◎書籍の紹介:『雑書』(東洋書院)
http://www.toyoshoin.com/book/b81774.html
◎書籍の紹介:『近世日記の世界』(ミネルヴァ書房)
https://www.minervashobo.co.jp/book/b599927.html